令和6年度川崎市教職員勤務実態調査について
4月時点で131.5人に及ぶ未充足。5月に入っても140.5人とさらに増加し、
危機的な状況となっている川崎の教育現場の勤務実態調査が行なわれました。報告だけで終わらず、この調査を踏まえ確実な対策が求められます。
令和5年度川崎市立学校教職員勤務実態調査0528-2(3)1.pdf (city.kawasaki.jp)
以下、この調査の目的、現状、調査結果、意見交換、それに基づく市の対応の方向性について、抜粋してご紹介していきます。
目的
教員の長時間勤務の是正に向けて、教員の多忙感と勤務に対する意識調査を実施するとともに、全国の先進的な働き方・仕事の進め方改革の取組事例等を参考にしながら、本市の特性等を踏まえて、多岐にわたる課題や解決方策等に関する意見交換会を開催し、教育委員会事務局や学校現場の学校管理職と教職員が対応するべき課題等を校種ごとに整理・共通認識化を図り、令和8年度からの「第3次教職員の働き方・仕事の進め方改革の方針」の改定作業の基礎資料とすることを目的とします。
調査にかけた業務委託費用は779万9千円(教育委員会HPより)。
川崎市教育委員会 : 令和6年度川崎市立学校教職員勤務実態調査支援業務委託に関する公募型プロポーザルについて (city.kawasaki.jp)
今回の調査結果を踏まえ、再来年度に行なわれる本市の教職員の働き方、仕事の進め方改革の方針改定の基礎資料としていくとのことです。
現状
本市の先生方の時間外在校等時間は、5ヶ月以内に連続して80時間を超える割合は減少したものの、月100時間以上、年720時間以上、月45時間6ヶ月以上の割合は増加しています。限定的な条件は改善したと赤枠でアピールする資料は、教育委員会の恣意的な感じも受けますが、結論から言えばこれまでの対策では長時間労働に歯止めがかかっていないのが現状です。
意識調査アンケート実施概要
市立小中学校に勤務するフルタイム(常勤)の教育職員を対象に全小学校114校中15校(487人)。全中学校52校中13校(490人)を抽出して調査を実施。
アンケート結果(抜粋)
授業コマ数
1週間に担当する授業コマ数「26コマ以上」は小学校で45.8%。中学校で0.5%。
中教審特別部会(12月14日)に提出された妹尾委員の資料では
全国の「26コマ以上」の割合は小学校37.2%。中学校2.2%となっており、本市の小学校の先生方が担当する授業コマ数は全国平均を上回っている現状があります。
休憩時間
まとめて取得できているか?の設問の回答が大きくなっていますが、そもそも「ほとんど取れていない」小学校83.9%、中学校92.9%で圧倒的多数となっています。
年次休暇
特に20代の中学校の先生の年次休暇取得日数が9.6日と少ない状況です。厚生労働省の調査によると、労働者1人平均取得日数は10.9日となっており、本市は20代の中学校の先生以外は他業種の平均を上回っています。しかし今年度、4月時点で131.5人未充足は昨年度の2倍以上の状況です。今年度は年次休暇が取りにくい状況が起きている懸念があります。
Microsoft Word – 令和5年就労条件総合調査概況 (mhlw.go.jp)
実際に年次休暇の取得の取りやすさに関して、管理職と教員との認識に開きがあり、管理職の方は取得を促しても、現場の先生からは「そうは言っても…」というギャップが発生しているのでは?
やりがい
どの年齢層でも80%以上の先生方がやりがいを感じておられる様です。
やりがいを感じる業務については
「授業」という回答が小学校69%、中学校75.8%と最多となる一方で、負担を感じる業務は「成績処理」が小学校47.3%、中学校41.7%で最多に。
また中学校の部活動については、やりがいを感じる36.6% 負担を感じる38.2%で意見が二分しています。
次に、業務や環境に対する悩みについては
文科省や教育委員会が学校現場の状況を把握していないが(小学校65.2%、中学校55.3%)最多、次いで作成しなければならない事務書類が多い(小学校62.3%、中学校53.5%)、授業時間の準備が十分に取れない(小学校61.2%、中学校52.3%)と続いています。
やりがいを最も感じる授業準備に時間が割けない。ここが改善すべき最大の課題と感じます。
「文科省や教育委員会が現場の状況を把握していない」と回答した職名別の状況は
「とてもそう思う」教諭、総括教諭が6割を超えています。と言うよりも、「そう思わない」と回答したのが校長、教頭以外で1割を切っている時点で、いかに行政側と現場の認識にギャップが生まれているかが現れています。
部活動
部活動が負担と感じている要因は「土日対応があること」53%、「授業準備や教材研究などができないこと」46%、「競技経験や専門知識が不足していること」42.9%となっています。
「保護者や地域から結果を求められる」11.9%…
部活動に求める支援は
大会への引率、大会の審判運営、部活動指導を外部人材に委ねるべきの順となっており、全て教職員で運営を行なうことへの支援を求める声が大きな割合を占めています。
働き方改革
学校・教師が担う業務に係る3分類
中教審が示した3分類のうち「基本的には学校以外が担うべき業務」では教員の業務とは思わない⇒小学校で最多は「放課後から夜間における見回り、児童生徒が補導された時の対応」92.9%、中学校では「学校徴収金の徴収・管理」89.2%。
「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」では教員の業務とは思わない⇒小中学校共に「調査・統計等への回答」が最多。実際にどんなものがあるのか…調べてみようと思います。また、このカテゴリーに例えばプールの注水・管理といった設備の維持管理が含まれていないのは残念なところです。中教審の分類に加え川崎独自で聞くべきではなかったのかと思います。
働き方改革で効果があるものⅠ【学校における業務改善・支援体制の整備】
校長・教頭、総括教諭・教諭共に「一部外部委託」が最多に。
「校務分掌・行事等の精選、業務の見直し」は総括教諭・教諭が高く、「教育委員会等からの調査精選、業務合理化」については校長・教頭が高い結果となり
「GIGA端末活用」については校長・教頭、総括教諭・教諭共に著しく低い結果となりました。
働き方改革で効果があるものⅡ【チーム体制の構築と学校を支える人員体制の確保】
管理職、一般教諭含め80%以上と圧倒的に効果があると回答したのは「クラス当たりの子どもの数を減らすなど、教職員定数の増を図る」。
つまり、少人数学級の促進です。
意見交換会
小中学校の校長と教育委員会でインプット、対話、アウトプットと共有といった内容で4回にわたり意見交換会を実施。
意見交換会で出された意見リストの中から何点かピックアプします。
【小学校】
- 教育課程の見直し(標準授業時数・余剰の削減・週のコマ数)
- 人員の増加(専科・スクールカウンセラーなど)
- 講師依頼や外部委託(ワックスがけ・プール清掃・ICT整備等)の予算確保
- 思い切った変化に対する地域や保護者の理解
【中学校】
- 対話の時間があり、議論しても本音が通じ合える学校にしたい
- 体と心を休めて職員同士が雑談できるような休憩がとれる時間
- 教育課程の見直し(時数・余剰削減・コマ数・試験休み・ノー部活Day)
- 「しんどそう」から「魅力的」と思われる教員にしたい
- 専門家に頼れるような体制(心理士・福祉・スクールロイヤーなど)
挙げた以外の意見を見ても、どれも頷ける内容ばかりです。
意見交換を踏まえ、4つの方向性を整理。以下、具体的に市が検討している対応の方向性となります。
4つの対応の方向性
授業時間を10~15分で分割する短時間学習「モジュール学習」を授業時数に組み込み、余白を生み出すための週のコマ数や登校日を今後も検討していく。
創造的な余白作りの取組みとして、短時間学習を導入することで毎日5時間授業も可能に?
教員の負担軽減、業務改善の取組みでは、教科ごとに担当を決め学年全体で授業を行なう「交換授業」やローテーションで複数の担任が各クラスを指導する学年(チーム)担任も検討をすすめるとのこと。
チーム担任制は他都市でも導入が進んでおり、好事例としていくつか報道されています。
担任の先生は2人?小学校で “チーム担任制” 狙いは | NHK
児童生徒主体の学びへ転換。言葉としての響きは良いですが、このあたりは教育の中身となってきますので、私からの評価はできませんが、渋谷区では探究学習という取組みを導入しているようです。
学力の担保はできるか?教科学習1割減、「探究学習」倍増させた渋谷区の今 公立小中学校で午後を「総合的な学習の時間」に | 東洋経済education×ICT (toyokeizai.net)
環境整備について教員不足の解消の検討が前倒し任用拡充等では全く不十分であり、採用枠を正規で確保する原則に立ち返ること、奨学金返済支援等、抜本的な対策が必要です。
また地域人材や外部スタッフ等の活用で、地域人材の活用は否定しません。私も個人的にできることがあれば喜んで協力したいと思います。しかし、アンケートで8割を超えた少人数学級の促進、意見交換会であった「専門家に頼れるような体制」(心理士・福祉・スクールロイヤー⇒弁護士)やプール清掃の外部委託等はどこにいってしまったのでしょうか?
今後の取組みについて
取組案を整理し、今年度は校長、教頭、教務主任と意見交換や意識調査を実施しつつ、進めていくとのことです。
資料は以上となります。
最後に
取組みについて、1日5時間制の導入や専科の加配等は否定するものはではありませんが、この実態調査で学校現場から届いた声、及び今年度131.5人の未配置スタートという危機的な状況を打開する取組みとしては不十分と言わざるを得ません。さきに触れた教員不足解消や業務負担軽減へ更なる抜本的な対策が必要と考えます。
その為には予算が必要です。
現状のままの予算でやりくりしていては、残念ながら付け焼き刃感が否めません。
業務過多、長時間労働は以前から指摘されてきたことであり、まさに「やりがい搾取」の元に野放しになっていたのではないでしょうか。結果、採用試験の倍率低下等、なり手不足に陥る悪循環となり、過去最多の教員不足がこの川崎で発生しています。
川崎の未来の子ども達の学ぶ権利が守られない重大な事態であるという認識に立ち、更なる抜本的な対策を求め、引き続き教育委員会と議論を重ねて参ります。
全ては、子ども達のために。